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「森と芸術」展 @東京都庭園美術館 [20世紀美術(海外)]

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東京都庭園美術館で開催中の
「森と芸術」展に行ってきました。

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はるか昔、人間は森に住み、森の恵みを糧に暮らしていました。
この時代、恵みを与えてくれる森には神々が存在していました。
ギリシャ神話にはサテュロスやニンフのように森の精霊が多く登場しますし、
その他にも大地母神としての森の神々が登場する神話が各地に残っています。

その後、人間は森を離れ「文明」を築くようになります。
この頃、アダムとイヴは森という「楽園」(エデンの園)を追われ、
神は唯一神として森ではなく天に存在するようになります。

ただ、「文明」を築いてからも人間は森や自然に郷愁や憧れを抱き続けてきました。
聖書の世界が中心だった西洋美術は
ルネサンス以降、ボッティチェリの「春」や「ヴィーナスの誕生」のように
ギリシャ等の神話・伝説に拠った美術が見られるようになります。
そして、神話の舞台となる森も多く描かれるようになり
クロード・ロランにはじまる風景画が登場しはじめます。

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19世紀、工業化がすすむ街は都会化し、
都会人は森や自然への郷愁や憧れをよりいっそう強く持ちはじめます。
このような時代を背景に、コローらバルビゾン派の画家たちは、
フォンティーヌブローの森を写実的に描きつづけました。
この動きはその後の印象派に引き継がれます。

19世紀末のアール・ヌーヴォーにも自然は多く登場します。
写実的というより象徴的に自然を捉えるアール・ヌーヴォーの手法は
ジャポニズムのような非西洋的な自然観の影響が指摘されていますが、
ケルトのような昔々の西洋の自然観の復活と見ることもできます。
この頃、ゴーギャンやセルジェ、ドニら後のナビ派に連なる画家達は
ケルトの伝統が多く残るブルターニュ半島に拠点を置き、
森や自然を象徴的に描きました。
このような動きはその後の象徴主義やシュルレアリズムにつながっていきます。

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ところで、日本でも
はるか昔、人間は森に住み、森の恵みを糧に暮らしていました。
この時代の宗教はアニミズムにもとづく自然信仰です。

現在でも比較的多く森の残る日本ですが、
弥生時代に森を離れて農耕を始めて以降は
森を拠点に狩猟や採取を続けた時代に比べて
森の存在は希薄になっていきます。

しかしながら、農耕をはじめてからも、
人間は心の深層部分に森や自然に対する信仰や畏敬の気持ちを抱き続けてきました。
これはいくら抑えようと思っても抑えられない気持ちのようで、
特に祭りのような特別な場面で顔を出します。

岡本太郎は東北を旅する中で
森を拠点に狩猟や採取を続けた縄文人のちょうど縄文土器のような激しい生命力あふれる姿が
現代の東北の日常に顔を出すのを多く発見し夢中で写真を撮り続けました。

人間は森から離れながら、
森を必要とし続けたようです。
これはきっと自然への信仰や畏敬の念が
心の片隅というよりもっと深い部分に隠れた土台として存在するためで、
岡本太郎はそんな心の深層部分に誰よりも早く気付いた人でした。

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本展覧会は上記のような壮大な森と人間をめぐる物語を
芸術を通して巡る展覧会です。

企画監修は巌谷國士さんです。
有名な目玉作品に頼るというより企画力でみせる展覧会で、
個人的にはこういう展覧会にはすごく惹かれます。

看板や図録の表紙にも使用されている
ナビ派のセルジュが描いた「ブルターニュのアンヌ女公への礼讃」は
若い騎士がアンヌ女公に若木を捧げているところが描かれた作品です。
西洋の根っこにあるケルトの自然信仰を描いたこの作品は、
巌谷國士さんも書かれているように、あまり知られていませんが、
とても心が動かされるような作品です。

心が動かされるのは
普段はあまり意識しなくとも心の深層部分にある自然への信仰や畏敬の念が
作品と共鳴しているからのような気がします。

本展覧会は上記作品のようにただ単に美しいだけではなく
心が動かされるような作品に多く出会える展覧会でした。
企画の力も相まって記憶に残る展覧会となりそうです。

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「森と芸術」展 @東京都庭園美術館
2011/4/16-7/3
http://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/mori/index.html
(その後、福井と北海道に巡回します)
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森と芸術

森と芸術

  • 作者: 巖谷 國士
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2011/04/21
  • メディア: 単行本



↓もお勧めです。本展覧会の内容に通ずるものが多くあります。


岡本太郎の見た日本

岡本太郎の見た日本

  • 作者: 赤坂 憲雄
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2007/06/26
  • メディア: 単行本



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