「アーツ&クラフツ展 ウィリアム・モリスから民芸まで」 [民藝]
「アーツ&クラフツ展」に行ってきました。
イギリスのアーツ&クラフツ運動から日本の民芸運動まで
ヨーロッパ諸国と日本の近代工芸運動を巡る展覧会です。
様々な近代工芸運動を見ることで、
その共通項が浮かび上がってきます。
一方で、相違点も気になります。
ここでは、相違点について考えてみました。
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最初の近代工芸運動はイギリスのアーツ&クラフツ運動から始まりました。
なぜイギリスで起きたかといえば、
きっと産業革命を起源とする工業化が最初に進んだのが
イギリスだったからだと思います。
アーツ&クラフツ運動は工業化社会の中で失われていく
手仕事や自然、伝統の中に美を見出しました。
その後、工業化が他の国々に伝わるにしたがい、
近代工芸運動も他の国で起こりはじめます。
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イギリスと地理的、宗教的に近い国は
比較的早く工業化を達成したようですが、
同じヨーロッパでも工業化が遅れた国もあったようです。
たとえば、ドイツも工業化が比較的遅れた国の一つのようです。
そんなドイツの近代工芸運動はイギリスのものとは少し違うように感じます。
イギリスの運動が工業化社会の中で失われていくものに美を見出したのに対し、
バウハウスへとつながるドイツの近代工芸運動を見ていると、
ドイツの場合は工業化社会の中で美を見出しているように見えます。
ギルトの職人的気質が元々工業化に向いていたのかもしれませんが、
工業化が遅れた分を取り戻そうとした側面もあったようです。
その結果、ドイツでは工業化は前提として存在し、
工業化の中での美=デザインの概念が早々に誕生したようにみえます。
北欧なんかも同じようなことがいえるようにみえますし、
また、ロシアの構成主義なんかにも同じものを感じます。
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ところで、
フランスも工業化が比較的遅れた国の一つのようですが、
フランスの場合はドイツとはまた違った側面があるように見えます。
元々、工芸には工業的側面と芸術的側面がありますが、
ドイツの近代工芸運動は工業的側面が強いのに対して、
フランスの近代工芸運動は芸術的側面を強く感じます。
フランスの近代工芸運動のアール・ヌーヴォーの作品は
大量生産に向いていない有機的曲線を多用した、
芸術的側面の強い作品です。
元々芸術の盛んだったフランスの場合は、
ドイツのように工業化が遅れた分を取り戻そうとする道ではなく、
芸術的な面で伸ばしていくという違った道を歩んだようです。
その結果、フランスはアートやファッションなど芸術的分野で
中心的な役割を果たすことになったように見えます。
イタリアなんかも同じようなことが言えるようにみえます。
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そして、日本です。
世界的には比較的遅れて誕生した日本の民芸運動は
工業化社会の中で失われていくものに美を見出すという点で、
原点であるイギリスのアーツ&クラフツ運動にとても近く感じます。
アーツ&クラフツ運動は手仕事や自然、伝統の中に美を見出しましたが、
民芸運動は特に手仕事に美を見出しました。
民芸運動はアーツ&クラフツ運動から40年くらい後に誕生していますが、
これは日本への工業化の本格的な波が届くまでの時間差なのかもしれません。
世界的に見れば工業化をほぼ前提としていかなければならない状況の中で、
失われていくものに美を見出すイギリスのアーツ&クラフツ運動と
同じ精神の運動が起きたことは
特に貴重で意味のあったことのように感じます。
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前から近代工芸運動同士の違いが気になっていたのですが、
特に工業化社会の中で失われていくものに美を見出す運動と、
工業化社会の中で美を見出す運動の差が気になっていました。
というわけで、
今回の展覧会をきっかけに
いろんな国の近代工芸運動を解説した本(↓)を読んでみました。
大変参考になって視野が広がった気がします。
興味がある方におススメします。
ここで書いたことも、多くは↓こちらの本に拠っています。
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「アーツ&クラフツ展 ウィリアム・モリスから民芸まで」@東京都美術館
2009/01/24-4/5
http://www.asahi.com/ac/
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